植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る

ニトロゲナーゼという酵素を使って窒素固定を行うリゾビウム属の土壌微生物
植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る
※Peculiar Plants Homeより転載

慣行農法では化成肥料(窒素系有機化合物)を畑に施すことで野菜成長の栄養源となる窒素を供給するのが一般的ですが、私は自然農法で農業を行っているため、微生物を活用して畑・自然環境に負荷をかけることなく野菜への栄養供給・成長促進をしていきたいと考えています。

前々から微生物の一種である根粒菌は気になっていましたが、きちんと学んだことがなく理解が漠然としていました。最近の戸隠は連日雨が続いていますので、空き時間を活用し微生物の働きを調べることにしました。それらの情報に基づき今回のブログ内容はまとめています。

★根粒菌とは何か?
根粒菌大豆などのマメ科の植物の根に根粒(つぶ状の根のようなもの)を形成し、その中で大気中の窒素を特殊な酵素(ニトロゲナーゼ等)によって還元し、アンモニア態窒素に変換し、宿主へと供給する土壌微生物のことです。窒素は植物の成長に欠かせない物質です。よく農業で窒素固定という言葉を耳にしますが、それはこの根粒菌が窒素をアンモニアに変換する働きのことを言います。

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る

畑の大豆を抜いて調べました。確かに小さなこぶがいくつもついています。これが根粒と言われるもので、この中に根粒菌が無数に生育し、窒素固定の働きを行っているのです。以前、畑で作業をしている時、たまたま大豆を根っこから抜いてしまい、「あれ?これは何だろう?」と疑問に思いましたが、今回その答えがわかりました。

さて、窒素固定の働きはとても貴重です。というのは、もし人工的にアンモニアを作ろうとすると、1000気圧という超高圧、500℃という高温のもとで、窒素(N)と水素(H)の化学反応が必要であり、莫大なエネルギーとコストがかかってしまうからです。人間が行うと非常に大変なことでも、マメ科の植物は生来持つ性質を使って、いともたやすく窒素を作り出してしまいます。自然界は凄まじいことを語らずとも不断に行っているので、その営みたるや驚異的としか言えません。

大豆に限らず、エンドウ、ソラマメ、インゲンマメなどのマメ科の植物や、シロツメクサ(クローバー)、レンゲソウ、カラスノエンドウ、スズメノエンドウなどの野草類も根粒菌と共生しています。シロツメクサやグリムソンクローバーなどはホームセンターの種売り場でもよく見かけます。“窒素固定をする緑肥として有効”とパッケージに書かれていることが多いのですが、ようやくそのメカニズムが理解できました。原理がわかれば応用の幅もアイデアも拡がります。

ちなみに畑に植えている野菜で他にも根粒を持つものはあるのだろうか?と思い、試しに数種を根から抜いてみましたが、大豆以外はこぶのない比較的ストレートな根をもつものばかりでした。

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る
アップルミント

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る
トマト

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る

これは花豆の根ですが、根粒らしきものは見当たりませんでした。花豆はインゲンマメ属・マメ亜科に分類されていますが、必ずしもマメ科だからといって根粒を持つ訳ではないようです。マメ科は広義には約20,000種近くにもなります。

★根粒菌の姿
冒頭はリゾビウム属の根粒菌でしたが、他にはこういう姿の根粒菌もいます。

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る
※wikipediaより転載

根粒菌は宿主であるマメ科植物から栄養をもらって生きていますが、マメ科植物も根粒菌がいることによりメリットがあります。それはマメ科植物が自身のみでは作り出せない物質を根粒菌が作ることができ、それらを享受しているからです。この状態を「共生」というのだそうです。

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る
※秋田県立大学のWEBサイトより転載


★光合成と根粒菌の関係
光合成の原理は小学生でも習いますが、今一度確認したいと思います。葉に含まれるクロロフィル(葉緑素)が太陽の光を吸収し、そのエネルギーによって二酸化炭素と水から糖やデンプンが作られますが、この反応のことを光合成と言います。原料となる二酸化炭素は葉の気孔を通じて大気中から、水は根から吸われます。

植物は光合成によってさらに複数の物質を作り出します。それは植物の繊維成分であるセルロースや細胞形成に必要なタンパク質などです。タンパク質は炭素(C)、酸素(O)、水素(H)以外に窒素(N)も含むので、それをどこからか取り込む必要が出てきます。それで植物は土中の窒素化合物であるアンモニア(NH₃)を窒素源とします。

これで植物の光合成と共に生育過程で必要となる窒素の重要性がわかってきました。一般的に「マメ類は肥料がいらない」と言われます。それも根粒菌の理解で明確になりました。

根粒菌は空気中の気体の窒素を材料にして窒素化合物を作り出すことができます。生産した窒素を生命維持のために自分で利用するだけでなく、宿主のマメ科植物にも供給します。それでマメ科は土中の窒素+根粒菌から供給される窒素によって無肥料でも良く生育していくのでしょう。補足ながら、空気中の窒素(気体のN₂)のままでは植物は利用できず、根粒菌によって原子配合が転換されることで活用できるようになるようです。

ところで、昔の農業では田植えをする前の田んぼにレンゲソウを育て、そのまま耕す(土にすき込む)ということが良くあったそうです。野菜を緑肥として有効活用していたことが伺えます。レンゲソウの根についた根粒菌がつくった窒素化合物によりイネがよく育つということです。

植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る
※Peculiar Plants Homeより転載


大豆はコンパニオンプランツとして優れていると言われる由縁も根粒菌に注目してみて、より一層その理由がわかりました。今年私の畑でも大豆をいろいろな野菜と共に混植してみましたが、確かに他の野菜の成長を促進いるような印象がありました。これはあくまで私の予想ですが、大豆の根粒菌が作り出した窒素の一部を何らかの微生物が土中の運搬に一躍担い他の植物にも栄養供給をしているのではないか、そんな気がしました。

〔窒素循環の仕組み〕
植物生育に欠かせない根粒菌の働きに迫る
※wikipediaより転載

★根粒菌の可能性(ゲノム解読の視点より)
かずさDNA研究所様のWEBサイトに約16年前に発表されたもののようですが、大変興味深い記事が掲載されていましたので、ご紹介いたします。

〔転記開始〕-----------------------------------------------------------------------------------------

かずさDNA研究所は根粒菌ゲノムの全塩基配列決定を完了した。これは、窒素固定を行う生物として世界初の成果であり、同時にこれまで配列決定されたバクテリアゲノム中最大である。この成果は、DNA Research誌12月号に発表される。

配列を決定した根粒菌は、土壌細菌の一種で、マメ科植物ミヤコグサに共生し窒素固定する能力をもつメソリゾビウム ロティ(MAFF303099株)である。根粒菌のゲノムは、一つの染色体と二つのプラスミド(小型の環状DNA分子)からなり、染色体は7,036,074塩基対、プラスミドは各々351,911塩基対、208,315塩基対(ゲノム総合計:7,596,300塩基対)である。配列決定は、ゲノム長の約8倍の配列データから全体を構築し(whole genome shot-gun方式)、さらに配列確認反応と長鎖クローンを用いた全体構造の再確認を行っており、決定した塩基配列の精度は極めて高いと考えている。

根粒菌ゲノムの全構造が解明されたことには、以下のような学術上、また農業への応用上の意義がある。

窒素源の供給は、云うまでもなく植物の成長を決定する重要な要因の一つである。植物は自身では大気中の窒素を利用することができないため、窒素源として、外部から供給された窒素肥料または根粒菌との共生(共生窒素固定、マメ科植物に限られる)によって固定された空中窒素のいずれかに依存しているが、多くの農業植物は根粒菌と共生しないため窒素肥料に大きく依存している。しかし、窒素肥料の生産はハーベイ法によるが莫大なエネルギーを必要としている他、土壌環境汚染による環境問題など多くの問題点を抱えているし、農家にとっては窒素肥料の生産コスト、運搬コストなど農業経営上の問題も多い。

根粒菌による共生窒素固定のメカニズムが明らかになり、もし他の植物でも共生窒素固定が可能になれば将来の農業を考える上でそのインパクトは極めて大きい。このため根粒形成、窒素固定のメカニズムの解明や関連遺伝子の単離などに向けて、国内外の多くの研究者が精力的に研究を進めている。この意味からも今回のわれわれの根粒菌ゲノムの全構造解明は、共生窒素固定の解明に大きく貢献するものと考えられる。

一方、土壌中には多種多様な微生物が生息し、それ自体の生態系を構築し物質循環や有用物質生産に貢献していると考えられてきた。また、上述したように、根粒菌などは植物と特に密接な関わりをもっており、農業上重要な役割を果たしている。にもかかわらず、ゲノム解析ではヒト病原菌や古細菌などが先行し、この分野に関係する生物のゲノム解析は皆無に近い状態であった。今回の解析によって農業生産に関りの深い根粒菌のゲノム全構造が明らかにされた結果、一般土壌細菌の遺伝的基盤、土壌中の生態系における役割や生物進化の研究にも多大の貢献することが期待される。

このように根粒菌のゲノム全構造解明によって可能になると思われる共生、窒素固定の各過程に関与する遺伝子の探索と単離、共生窒素固定系の再構築、マメ科以外の植物への共生窒素固定系の付与などを通して、窒素肥料にかわる空中より直接窒素を窒素肥料としての供給法の開発とそれによる窒素肥料使用量の画期的低減という人類の長年の夢への道が大きく開かれたといえる。


(※文章の強調・カラーはブログ執筆者によるものです)
-----------------------------------------------------------------------------------------〔転記終了〕
※転記元のWEBページはこちら

本文中で紹介されているように、空気中の窒素を植物へ直接供給を可能とする技術や窒素肥料(化成肥料)を低減しつつも植物を生育良好にできる技術の実装化が可能になれば、農業が新しいステージに入っていくことと思います。

そしてそれが自然循環から逸脱しないものであればより一層魅力的に感じます。農業は古き良き知恵と先端科学が融合しやすく、それでいて生命と密接に関わる尊い仕事であると、認識を強めました。

〈参考WEBサイト〉
秋田県立大学コラム(根粒菌)
実験観察館(根粒ってなに?)
かずさDNA研究所(根粒菌ゲノムの完全解読について)
Peculiar Plants Home(Rhizobacteria)
wikipediaの根粒菌のページ

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プロフィール
水谷翔(地域おこし協力隊 戸隠地区)
水谷翔(地域おこし協力隊 戸隠地区)
三重県桑名市生まれ。
2016年5月、長野北部・戸隠に移住し農業に取り組んでいます。
戸隠は3つの巨大な活断層に囲まれたフォッサマグナ地帯であり、火山灰土+海底隆起の肥沃な土壌が魅力的です。
無農薬・有機栽培・標高850m。
高原花豆・果菜類に力を入れています。

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