集落の農家の暮らしの知恵に触れて

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
古い農機具類。回転力など自然界の理に適った使い方には驚きます(小田切在住の方の倉庫にて)

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【ムラの景観】家・集落・神社・堂・石仏・―田・畑・畔(あぜ)・道・沢・川・池・草地・茅場・―雑木・立木―丘・山

○「江戸時代のムラは〔板木の音が聞こえる範囲がムラ〕」
○「ムラには生産と生活が共にあり、その喜びを共有するムラ人がいて、その隣りに神と仏がいて、
  日々の生活を支えている」
「人間存在の基本は食で、その食を生み出すのが農業」
「小さな種に詰まっている恵みを土、水、太陽との共同作業で取り出すのが農業の神髄」
「農業は〔手をくれる〕〔手を入れる〕〔手入れする〕〔手間ひまかけ〕て、自然とかかわって
  いく。自然は人間の手が加わると温かくなる」

「農民は総合職人、農家は総合博物館」

(引用:信州大学プロゼミ 中山間地域の未来学Ⅲ 第9、10回(12/3開催) 宮下健司講師レジュメより一部抜粋)
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10月から受講してきた信州大学主催のプロフェッショナルゼミも折り返し地点を過ぎました。上記は講座で使用されたレジュメからの抜粋です。農業の意義が温かみをもってまとめられており、数々の心に響いた言葉をご紹介させていただきました。

今年は戸隠近隣の小田切地区が開催場所となっており、毎回地区内の異なった集落にスポットが当てられています。これが面白いことに集落がひとつ違うと昔からの伝えられる生活の知恵・技法も少々異なる部分があり、こんな近隣でも差があるんだ!と驚きます。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
(長野市文化財団データベースより)

そう考えると、例えば戸隠と鬼無里のおやきの味が異なっていたことを思い出しました。私の住む戸隠の集落の方に以前おやき作りを教わったのですが、その時に「私達戸隠に住む人たちが作るおやきのやり方と具材も鬼無里とはちょっと違うのよ」と聞きました。その後、おやきの食べ比べをしましたが確かに違いがありました。両方美味しいのですが微妙に違う、どうしてそうなるのかなとその時は不思議に思いました。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
今年の夏に作った信州伝統食のおやき。昔から保存食としても重宝されています。

現代的な感覚からすると近隣の集落や地区へは車で数分~10分程度で行けるので、生活技法や食事の味・作り方にそんなに差が出ないように感じますが、実際に中山間地に住み始めると、何となくそうなる理由がわかってきました。

この辺りは丘陵地帯であり、アップダウンがかなり激しい地形です。そのため、今でこそトンネルがあけられ、道路も整備されていて移動は簡単ですが、昔は隣の集落にいくにも一山を歩いて越えてという感じだったと思います。ましてや戸隠から鬼無里までの移動なら、場所によっては1日以上かかることもあったと思います。

そう考えると、いつでも手軽に情報共有できる訳ではなく、料理や生活技法は口伝のような形で代々大切に受け継がれてきたでしょうし、何度も繰り返す動作には作り手・担い手の個性やクセが少しずつ出てきて差が出来ていったのではないかと思われました。それが微妙な文化・伝統の内容と継承形態の違いにもなったのではないか、そう感じます。もしそうだとしたら面白いことですよね。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
こんな丘陵地帯を昔は歩いて山越え谷越えだったので肉体の強靭さに驚きます!(大望峠:夏)

今回の講座では前半は藁(わら)を使ってのしめ縄づくりの体験をしました。生まれて初めての手作業でのしめ縄づくりはとても楽しかったです!そして、しめ縄の螺旋構造に包蔵されていると思われる意味の深さにもびっくりしました。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
集落の住人の方が実際に手作業で見本を見せてくださいます。単純そうで最初はなかなか難しい。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
上手に藁(わら)回転させて作っていくと簡単には解けてこないところがすごい。

しめ縄は「右回転」「左回転」をミックスさせて作っていくのですが、その理由が気になり、講座後の忘年会でA教授にご質問させて頂いたところ、何とも納得のいく明快なご回答を得ました。

「人間の靭帯や筋肉組織は右回転と左回転が交互に重なっています。それによって伸縮・前後・左右への運動機能の幅が広がり、何と言ってもヘリックス(螺旋)構造は強度を増します。人間の遺伝子や細胞の構造も螺旋は基本パターンなので、それを人は何となく感じて、しめ縄づくりの動作一つをとっても無意識に行ってきたのかもしれませんね」

ということでした。なるほど!と実に含蓄に富んだご見解でした。

しめ縄づくりと共に回転力を応用した昔ながらの火おこしキットも体験できました。昔小さい頃、田舎に行った時にやった経験を思い出しました。それにしてもこんな単純な構造であるものの、自然界のエネルギーの理を活かして火をおこせることにも改めて感動です。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて

集落の農家の暮らしの知恵に触れて

後半はフィールドワーク、集落内を先生の解説と共にめぐり、古くからの農家の生活の工夫や習俗、信仰などについて学びました。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
茅葺屋根は自然素材の特性を生かして多層構造になっているそうです。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
これはタヌキの糞の残骸だそうです。小さい柿の種は消化されずに残っています。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
馬頭観音の古い石碑。軍馬として徴兵された馬を称えた跡とのこと。

馬頭観音の石碑は昔農業は栄えた場所によく置いてあると以前聞いたことがありましたが、その経緯までは知りませんでした。かつては家屋内に馬が住み、人々と一緒に暮らし、農業を協同していたと聞きますが、そんな家族同然の馬が徴兵されて戦争にいく際、敬意といつまでも存在を忘れない気持ちを留めておきたく石碑にして置いた、と。何とも形容しがたい心境になります。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
土蔵の上部に流体で描かれた「龍」の文字。集落では結構どこでも目にします。

日本は古来から龍神信仰が盛んな国ですが、龍神とは水神でもあります。土蔵は日用品から食料が貯蔵された貴重な空間、そこに火の気がないようにという想い込めて昔から土蔵にはよく「龍」の文字が書かれたそうです。

集落の農家の暮らしの知恵に触れて
この木の柵のような器具は豆類の脱穀の際に使用するのだそうです。

最後は今回のメイン講師であった宮下健司先生の講話でした。ムラ―ノラ―ヤマの違いとそこに住む人々の営み・文化、そして農業のお話し、熱意と共に語られた数々の知恵の結晶は受講生全員の心に響いたことと思います。最後に先生の言葉とレジュメから。

・「形あるものはいつしか姿を変えるが、人の営みは文化としていつまでも残る」
・「ムラや農家のモノが伝えてきた意味を後世に残し、伝えていくこと」
・「ムラの存在・意味を考えることは、心の豊かさ物語の豊かさへつなげていく取り組み」
・「古きを護るも開発なり(柳宗悦)」


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プロフィール
水谷翔(地域おこし協力隊 戸隠地区)
水谷翔(地域おこし協力隊 戸隠地区)
三重県桑名市生まれ。
2016年5月、長野北部・戸隠に移住し農業に取り組んでいます。
戸隠は3つの巨大な活断層に囲まれたフォッサマグナ地帯であり、火山灰土+海底隆起の肥沃な土壌が魅力的です。
無農薬・有機栽培・標高850m。
高原花豆・果菜類に力を入れています。

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