2017/03/13
生きている岩(イワ)が鎮座する場所
岩窟観音堂(戸隠栃原地区)
戸隠の南西部はかつて柵村という場所であり、昭和32年に戸隠村と合併されました(戸隠村も平成17年に長野市に合併)。今は地元では旧・柵地区(栃原地区とも)と呼ばれていますが、ここには見るものを圧倒する巨石と巨木が存在しています。その場所は岩窟観音堂と呼ばれ、普段は人気(ひとけ)がなく静かですが地元住民達からは親しみと敬意の念を持たれている場所です。
この地にドンと二つ対になって鎮座する巨石、まるで呼吸をしているかのような瑞々しさと荒々しい両側面があります。
そのすぐ傍には幹囲が約9.5mにも達する非常にパワフルな千年杉(実年齢は諸説あり)が堂々と聳えていますが、未だに成長の衰えは感じさせず、生き生きと生育を続けているようです。足を運ぶ度に感じるのは、実体以上に大きく見える感触があることです。それは杉が生育旺盛で活力に溢れているからでしょうか。
話しを巨石に戻したいと思います。最近、日本の古い文献に「岩」に関する実に興味深い見解が記されていることを発見し、岩窟観音の巨石と対比させて考えていましたが、自然界の絶妙な働きに感心・感動し少々を書かせていただこうと思います。
まず、“生きている岩”とはどういうことなのかを考えたいと思います。岩が生きているとは成長をしていることであり、結晶が拡がって行くことという見解がありました。
次に生きていること≒生命が発生する条件についてです。生命の発生条件は実に複雑巧妙で神秘的な側面の方が多く、一言で表現するのは横暴でしょうが岩に関して考える際、➀結晶構造に安定性を持った水を含んでいること ②電子密度を持つことが肝要だそうです。
岩が生きているような環境でなければ植物も成長することができず、逆に植物の育つ環境なら岩も成長していくようです。
以前どこで聞いたか忘れましたが、岩が知らない間に大きくなっていくという怪談めいた民話を聞いたことがありますが、岩の構造をよく知っていれば単なる超常現象とは違った捉え方もできます。といっても一夜にして姿を変えてしまう程、巨大なエネルギー的変化は想像し難いですが、、、。
長野県・不動滝(高森町)
ここで想起されるのが古来から続いてきた山岳信仰や巨石信仰です。その舞台は日本全国に無数に存在しますが、とりわけ活断層地帯・構造線上に特に集中している気がします。戸隠は3つの大きな構造線に囲まれた場所ですが、修験道の聖地として大昔からその名がよく知られていた様子は口伝と多種の文献によっても伝わっています。
地底部での莫大なエネルギーは火山噴火や海底隆起を引き起こし、雄大な山脈を形成していきましたが、こうした環境下には豊富な湧水の噴出口も多く見られます。
この大地から生まれたばかりの湧水がキーポイントかと思います。というのも生まれたばかりの湧水というのは美しい結晶(分子)構造をしていると言われています。それは感覚的にも頷けます。湧水や伏流水が盛んな場所は概して生態系が豊かであり、人々を惹きつける魅力にも満ちています。当然、微生物・動物・虫・鳥にとっても恰好の成長環境でしょう。
山梨県・大滝湧水(小淵沢)
岩が成長する条件として安定的な結晶構造を持つ水が一躍を担っているとしたら、湧水が近くにあるというのは好条件であるはずです。それで先に書いてきたような地質・環境を改めて考えると求心力のある信仰の舞台となった場所的条件にますます納得がいくものがあります。
長野県茅野市・蓼科
視点は変わりますが、岩は部分によっては死んでいるところ(風化)、成長しているところ(新陳代謝)の差があるようです。古代にはそうした状態の違いを感得して呼称が微妙に異なっていた模様です。
生きているものは「岩(イワ)」、生きている岩(イワ)からかき取られたカケラを「イハ」、やがて成長の止まった(死んだ)状態のものを「イシ」と呼んだそうです。
一般的に古代の石器はその辺りに転がっている手ごろな石を叩いたり、磨いたりしたと想像されていますが、実際は生きた岩(イワ)から敬意を持って取り出し(イハ)、細工して使用していたのではないかという見解もありました。
ちなみに岩も内部構造を見ると木の年輪のように岩目なるものがありますが、これはその場の環境の電位構造に影響を受けるそうです。水、風、圧力、熱など物理的に感覚されやすい条件のみではなく、非常に微細な領域の要素も多分に影響をしているらしく、実に面白いことです。
私が農業に取り組む圃場の一つは岩石類が多いですが、岩への理解の深まりと共にインスピレーションが続々と湧いてきました。やはり単に作業の障害物と捉えるのではなく、一つひとつに意味があり、大地の歴史の理解に留まらず、生命成長のための環境条件を判断していく上でも大切なポイントにもなってくる気がしました。
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