2017/10/01
田舎(戸隠)の「音」と都会(新宿)の「音」
今日から10月に入りました。戸隠では秋の足音がもう聞こえてきています。木の葉の紅葉も少しずつ始まっています。農作業をしていて気づくのは、秋の山は意外なほど賑やかということです。カサカサ、ボトボト、ザーザー、文字にすると平面的で単純な表現になってしまいますが、山奥で聞こえる音は実に豊かです。それは、風と共に葉が一斉に落ちる時、木の実やいが栗が落ちてくる時、風が吹き抜けていく時など、様々です。
小川のせせらぎは誰にとっても心地よい音だと思います。家の戸をあければ聞こえてくる山からの伏流水の音に和み穏やかになります。
マルハナバチが一生懸命働く姿には心打たれるものがあります。羽音を怖がる人もいますが、農作業中に刺されたことも威嚇されたことも一度もなく、心地よささえ感じます。
秋の夜の虫たちの合唱。これも田舎の自然音の代名詞かと思います。都会ではなかなか味わえない贅沢な音空間がひろがります。
先日、高原花豆のことで東京に出張に行きました。約半年ぶりの都会です。そこで真っ先に意識されたのが、「音」のことです。山奥での生活とあまりにも異なる音の環境。頭ではわかっていることとは言え、身体がすぐには順応してきません。環境から聞こえてくる音だけではなく、人との会話・コミュニケーションのリズムも異なることがはっきりと感じられます。生活環境の違いによって生態感覚も大きく変わることを都会に出て来た時に体感できるのは新鮮です。
交通手段を今回は高速バスにしたため、帰路への出発前に新宿を少し散策しました。“女性が輝き続けることができる経験と価値を提供する”ことというコンセプトで生まれた「NEWoMan」という商業施設。「音」と「香り」への配慮が随所に感じられました。小川のせせらぎや動物の鳴き声などの自然音が流されていて、リラックスできるアロマの香りが漂っていました。その日、雑踏を歩き、電車や車などの機械的人工音に疲れ始めていたので、より敏感に感覚されたのかもしれません。ビルの中の心地よい空間作りは際立っていました。
驚いたのはスピーカーから聞こえてくる自然音の中にインドネシアの民族音楽の代表格であるガムランやジェゴクの音が聞こえてきたことです。「あれ?」と思い注意深く耳を傾けていると、自然音のバックに大橋力氏率いる芸能山城組のサウンドが流れていました。楽曲がミキシングされて流されているようでしたが、「輪廻交響楽」というアルバムの中の「転生」という曲だとはっきりわかりました。私の大好きなアルバムの一つで、今もよく聞いています。
ジェゴク、ガムラン、声明、ヴォイス、自然音等で構成される緻密かつ唯一無二のサウンドは海外でも高い評価を得ているそうです。芸能山城組と言えば、近未来のSFアニメ「AKIRA」の映画音楽を担当したことでも広く知られていて、多くの人がそのインパクトの強いサウンドが印象に残ったことと思います。
多層構造のリズムと複数のハーモニックサウンド(倍音)が登場する楽曲は、まるでランダムな音が交雑しながらも巨大な循環システムの中で統一されている自然界の音のように心地よく内面に響き、訴えかけるものがあります。
大橋力氏は壮大な音の世界を“音の環境学”として「音と文明」という書籍にして2003年に出版しています。西洋音楽と東洋の伝統音楽(尺八、琵琶)、ガムランとピアノの楽器同士、あるいは、せせらぎ、祝祭空間、屋敷林、村里、都会の町の音等の音のスペクトル比較分析など興味深く、遺伝子に約束された音とは何か?というテーマのもと、緻密に探求された内容となっています。
(岩波書店出版)
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“物質の世界に必須栄養、例えばビタミンが在るように、情報の世界にも、生きるために欠くことのできない〈必須音〉が存在する。”
“私たちが新しい手段で地球各地から収集した美しい快い自然音の中には、人間に音として聴こえる周波数上限を何倍も上廻る超高周波成分をもつものが珍しくない。しかも、私たち自身の実験から、そうした非知覚成分を含む音によって脳幹、視床、視床下部を含む脳基幹部の活性が歴然と上昇することが発見された。脳基幹部は私たちの心と躰を制御する中枢である。知覚を超える高周波成分に富んだ音がもたらすこの部位を活性化する効果は、物質レベルでみるビタミンや微量元素さながらであり、まさに〈必須音〉と呼ぶにふさわしい。”
“反対に、文明化に伴う音環境質の変異によってこの活性化因子が欠乏すると、脳基幹部の活動は低下をまぬがれない。それは、あたかも必須栄養素の欠乏のように、私たちの心身に重大な障害を導く恐れがある。実際、これについては生活習慣病、心身症、精神と行動の障害、そして発達障害など、現代社会を脅かす文明の病理との関連が濃厚に疑われるのである。”
“環境から私たちに到来するメッセージの中には、ある種の栄養素や毒物がそうであるように、感覚では捉えられないのに生命に決定的な作用を及ぼすものがある。”
“無音状態とは、人類またはその祖先の大型類人猿が熱帯雨林に代表される森林性の環境の中で進化したとすると、その過程を通じて、例外としてもほとんど遭遇することのない生物学的にはきわめて特異な音環境といわなければならない。それは、人類の遺伝子を育んだ「本来の音環境」ともっとも隔たりのある音環境の一典型といえよう。従って、無音状態は人類にとって異常な負の刺激としてきわめて強く作用する可能性が高い。”
“人類の遺伝子を育んだ本来の環境と推定される熱帯雨林では、環境音がきわめて豊かである。”
(大橋力『音と文明―音の環境学ことはじめ―』より)
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農作業をしていると体力の向上と健康の維持は常に感じるところですが、実は山奥の豊かな「音」の環境の中に浸りながら作業を進めていることも大切なポイントになっているはずです。田舎に住むこと、農業に携わることを「音」という側面から迫ってみるとき、新しい魅力を発見・認識できるかもしれません。今は季節の移行期、紅葉と共に環境から放出される「音」の変化も意識したいと思います。
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